私もコンビニ人間【さちえの本棚vo.5】

2016年8月28日(日)

はじめに、村田沙耶香女史の芥川賞受賞を心よりお祝い申し上げます。

 

第155回芥川賞受賞作品「コンビニ人間」が今回の本です。

 

 

主人公は18年ずっと同じコンビニで働き続ける36歳独身女性の古倉恵子。彼氏がいたことはない。

 

次の日のコンビニバイトに支障が出るため夜11時には寝る準備をしたい。コンビニ中心の生活。もちろん趣味があるような記載もない。

 

彼女は幼少期から人と違うということを薄々感じていたが、それを悲しんだり選民意識をもったりするわけでもない。

 

いつも合理的に動くけれど、人に気持ちをくみ取ることができないため、自分では筋が通っていることも人からみたら異様にうつる。

 

人と違うから、親が困っている。親を困らせるのは本意ではないから、普通にならなくては。でもどうしたら。

 

コンビニバイトをはじめてから彼女の世界は大きく変わります。

 

研修ビデオの表情や声の出し方をまねしながら、笑い方などを覚えていきます。

 

そして、コンビニの店長や一緒に働くスタッフのまねをしながら、どんどん普通っぽさを身につけていきます。

 

彼女は「大抵のひとはそうなのではないかと思っている」といいます。

 

いろんな人のまねを繰り返しながら、人のかたちを保っていると。

 

 

 

かくいう私も、まねをしながら人のかたちを保っている方の人間です。

 

さかのぼれば小学校入学の時からそれは始まっていました。保育園にも幼稚園にも通わなかった私は、同年代の集団に対してどう接したらいいかわからず戸惑ったことをよく覚えています。

 

大抵みんな幼稚園や保育園時代の友達がいて、以前より仲の良い友達とグループを作ってしまっている。

 

近くの席の子に話かけてもいいものか、それとも一人でいるあの子に声をかけた方がいいのか、そもそもきょろきょろしているとおかしく見られはしないだろうか。

 

人が話しているときは割り込んじゃダメという親のしつけが変な方向に作用して、終わらない子どものおしゃべりに割り込むことができずガチガチに緊張したまま入学式を終えたことを覚えています。

 

人気者の女の子のまねをしたり、よく怒られるのに可愛がられる男の子の様子を少しまねたり。

 

子どもはまねに厳しいので、それがタネになって嫌われないよう、丸々まねするのではなく、少しだけまねるというのがとても難しかった覚えがあります。

 

仕事でも、どんどん先輩や周りの人のまねをしました。

 

まねをする中で、失敗をしたこともたくさんあります。なぜこういう時はそうするのかというのを理解しないまま、うわべだけまねると大抵失敗しました。

 

 

そういえは、最近行った飲み屋で隣の席の人と話をしていたら、何かのきっかけで「なかなか人に甘えられない」という話になりました。

 

「人に甘えられなくて彼氏を作るどころか、人に気を許すことができない!」といったような話だったと思うのですが、そのときにこんな話をされました。

 

 

「甘えられない人は、罪悪感が根底にあると思う。甘えることに関して罪悪感とか面倒とか思ってしまう人間は基本考えすぎ。人に甘えたり任せたりすると自分が楽になってもっと視野が広がる。人に任せることでしかできないこともあるんだよ。なりたい自分のまねだけじゃなくて、その正反対にいると思っている人のまねをすることで、深みが増すこともある」

 

完全にオリジナルの人間なんていなくて、みんなだれかのまねをしてここまで来てるよ、とも。

 

 

コンビニ人間について、主人公の感情の記述がほとんどないというのが特徴的です。

 

主人公の彼女自身が感情の振れ幅が小さいということもあり、悲しいとか嬉しいとか感情がほとんど動かないまま話は進んでいきます。

 

体力た体質に個人差があるように、心の動く振れ幅にも個人差はあると思う。振れ幅が大きい人の方が、比較的ひとの気持ちがよくわかるのではないかと思う。
感情の振れ幅が少ないけれど、人の気持ちがよくわかる人がいるけれど、きっとそういうひとは訓練して自分の感情を飼いならしている人だと思う。早くそっち側に行きたいけれど、まだまだ行けそうにはない。

 

話の最後に感情の振れ幅がない彼女が、はじめて感情を爆発させるシーンがでてくる。

 

まねを続けていた彼女がはじめて、自分の主張をはじめる、まるでうまれたばかりの赤ちゃんみたいに。

 

普通でいるよりも大事なものを選ぶ彼女は、はたから見たら確かに異様かもしれない。

 

でも、だれが普通か普通じゃないかなんて決められるでしょうか。

 

家族や友達が彼女に期待する普通っぽさからは、得体のしれないものへの恐怖に近いものを感じて少し私は怖い。

 

自分と違うから理解できないなら、友人も恋人も結婚も子育ても難しいのではないのかな、そんな風に思う私は自分と違うものを理解したい、理解できるという気持ちが行き過ぎてそれはそれで異様だな、なんて考えすぎる私に彼氏はできそうにもありません。

 

 


この記事の投稿者

sachie
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メルマガ担当。 愛猫をお腹の上に乗せて、コーヒーとシュークリームを楽しみながら映画を見る時間に幸せを感じるさちえです。 毎週末に本を3冊読みます。おすすめの本を隔週で発信していきます☆
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